朝いちばんに上司の予定表を開くと、木曜の16時から30分だけ、何も入っていない枠があります。
そこに自分の名前を入れるかどうかで、もう10分ほど画面を眺めている。
件名の欄には、まだ何も打っていません。
退職の話でいちばん手が止まるのは、話の中身より、話を始めるところです。
声をかけるのか、チャットで送るのか。
会議室を取るのか、帰りがけに呼び止めるのか。
この記事で扱うのは、その部分の段取りと、席に着いてから口にする言葉です。
言う時期を内定の前にするか後にするかは、退職を伝えるのは内定の前?後?の記事で扱っています。
ここから先は、言うと決めたあとの話です。
時間をもらうときは、用件を「相談」とだけ言う
退職の話は、廊下や席の横で始めないほうが話しやすくなります。
周りに人がいると、上司も返事のしようがないからです。
まず「時間をください」とだけ頼み、中身はその場では言いません。
頼むときの言葉は、1文で済ませます。
「ご相談したいことがあるので、15分ほどお時間をいただけますか」。
これで十分です。
用件を聞き返されたら「少し込み入った話なので、2人のときにお話しさせてください」と返します。
例(チャットで時間をもらう):
〔上司の名前〕さん、お疲れさまです
ご相談したいことがあり、15分ほどお時間をいただけないでしょうか
今週ですと、木曜16時か金曜の午前が空いています
会議室はこちらで押さえます
チャットに「退職」の2文字を書かないのは、画面を誰かに見られる心配があるからだけではありません。
文字で先に知ると、上司は会うまでのあいだ、1人であれこれ考えることになります。
顔を合わせた最初の一言で知らせるほうが、話がまっすぐ進みます。
曜日と時刻は、上司の手が空く所を選ぶ
月曜の朝や月末の締めの日は、上司の頭が別のことでいっぱいです。
大きな会議の直前も避けます。
話のあとに10分くらい余白がある時刻だと、上司もその場で次の段取りを考えられます。
選びやすいのは、夕方の、終業の1時間ほど前です。
もしその日のうちに上司が人事や部長に話を通したくなっても、まだ人が残っています。
自分の側も、話したあとに長く席にいなくて済みます。
場所は、扉の閉まる会議室か、空いている応接の部屋がいい。
ガラス張りで外から中が見える部屋でも、声が漏れなければ使えます。
在宅勤務の日が多い職場なら、オンラインの1対1の面談で話しても失礼にはなりません。
その場合はカメラを付けて、顔が見える形にします。
最初の30秒で言う3つのこと
席に着いて、上司が「で、どうしたの」と言う。
ここから30秒くらいが、いちばん緊張する時間です。
前置きを長くすると、言う側も聞く側もつらくなります。
最初の30秒で入れるのは、退職したいという結論と、希望する退職日と、理由の短い一言です。
この順番で、1つずつ言い切ります。
例(最初の30秒):
「お時間をいただいてすみません
突然のお話で申し訳ないのですが、〔〇〇〕月〔〇〇〕日付で退職させていただきたいと考えています
別の会社で、〔〇〇〕の仕事に挑戦したいと思ったのが理由です
引き継ぎは、できるかぎり責任を持ってやります」
結論を最初に置くのは、上司が聞きながら構えなくて済むからです。
「最近ちょっと考えていることがあって」から入ると、上司は異動の相談か、体調の話か、身内のことかを探りながら聞くことになります。
そのぶん、退職と分かったときの驚きが大きくなります。
退職日は「〇月〇日」と日付で言います。
その日付は、就業規則の退職の条で申し出の期限を確かめてから決めておきます。
理由は1文にして、不満は言わない
理由を言うときに、今の職場の不満を並べたくなることがあります。
残業が多い、評価に納得がいかない、人が足りない。
どれも本当のことかもしれませんが、口にすると「それなら直すから残ってほしい」という話に変わります。
理由は、次にやりたいことを1文で言うくらいにとどめます。
「家族の事情で」「自分の将来を考えて」のような短い言い方でも、話は前に進みます。
くわしく聞かれたら、答えられる範囲で答えればよく、全部を説明する決まりはありません。
転職先の会社名は、最初の面談では伏せておきます。
聞かれたら「入社の手続きが済むまでは、控えさせてください」と返します。
取引先や同業の会社だと、話がややこしくなることがあるからです。
言ったあとの2分で、決めておくこと
結論を伝えると、上司から「本気なの」「少し考え直さない?」と返ってくることがあります。
日付を動かさずに返す文例は、引き止めへの返し方の記事にあります。
最初の面談で決めておきたいのは、次に何を、誰と話すかです。
たとえば、こんなことを最後に確かめておきます。
部署のほかの人には、いつ、誰から伝えるのか。
人事にはいつ話が行くのか。
退職届はいつ、誰に渡すのか。
上司がその場で決められないなら、「次はいつ時間をいただけますか」と聞いて、次の面談の日だけ決めて終えます。
人事への連絡や退職届の受け取り方は、上司が自分の上司に相談してからでないと答えられないことが多いからです。
最初の面談の役目は、退職したいという意思と日付を、上司が受け取ったという事実を作ることです。
上司を飛ばして、その上の部長や人事に先に言うのは避けます。
あとで上司が人づてに知ると、引き継ぎの相談がしにくくなります。
上司が長く休んでいるなど、どうしても直接話せないときは、部長に「〔上司の名前〕さんにお伝えする前に、ご相談させてください」と前置きして話します。
声が震えたときのために、紙を1枚持っていく
緊張すると、練習した言葉が出てこなくなります。
小さなメモに、退職日と、理由の1文と、引き継ぎについての一言だけを書いて、手帳に挟んでおきます。
読み上げる必要はなく、言葉に詰まったときに目を落とす場所があれば、それで役目を果たします。
前の日の夜には、自分の担当している仕事を、思いつくだけ一覧に書き出しておきます。
取引先の名前と、毎月の締めの仕事と、途中まで進めている案件くらいを並べます。
上司は結論を聞いたあと、たいてい「仕事はどうする」と考え始めます。
そこで「担当の一覧は作ってあるので、次の面談でお見せします」と言えると、話が引き継ぎの段取りへ進みやすくなります。
一覧は書きかけの下書きのまま見せます。
誰に何を渡すかを決めるのは上司なので、こちらは材料を出すところまでで止めます。
「今ちょっと忙しいから、あとで」と言われたら
時間をもらう頼みに、上司が「今週は無理だな」「あとで声をかけるよ」と返すこともあります。
そのまま待つと、声がかからないまま1週間が過ぎることがあります。
その場で「では来週の月曜か火曜の夕方はいかがでしょう」と、こちらから2つ候補を出して、日付だけは決めてしまいます。
約束した面談が、上司の急な会議で流れる日もあります。
流れたら、同じ日のうちに「改めて15分いただけますか」とチャットで送り、次の枠を押さえ直します。
流れたまま日がたつと、切り出す気持ちをもう一度作り直すことになり、そのほうが疲れます。
2回目は「先日お願いした件で」と書き出せば、それ以上の説明は要りません。
木曜16時の枠と、金曜の午前。
上司の顔を思い浮かべたとき、落ち着いて話を聞いてくれそうなのはどちらの時間でしょうか。
アイキャッチのイラストはAI生成です。



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