「取引先には、まだ言わないでおいて」
退職が決まって上司にそう言われることもあれば、「来週中に全部回っておいて」と言われることもあります。
社外に知らせる時期を、会社の側で決めている場合があるからです。
退職の挨拶メールは、相手が社内か社外かで、送る日がずいぶん違います。
同じ文面を同じ日に一斉に送ると、取引先には遅すぎて、社内には早すぎることがあります。
送る順番は、社外が先
取引先への連絡は、最終出社日より前に済ませます。
担当が替わることを知らせ、後任を紹介するのが目的なので、後任と一緒に挨拶に行ける日があるうちに送ります。
目安は最終出社日の1〜2週間前ですが、上司や営業の責任者が時期を決めている会社では、そちらが先です。
社内への挨拶は、最終出社日の当日で間に合います。
早く送ると、残りの日に顔を合わせるたびに、送別の言葉をもう一度受け取ることになります。
ただ、他の拠点や在宅勤務の人で、当日には読まれない相手がいるなら、前日の夕方に送る手もあります。
有給休暇をまとめて取ってから辞める場合、最終出社日と退職日は別の日になります。
有給の残りから最終出社日を決める手順は退職前に有給休暇を使い切る段取りに書きました。
取引先へのメール
取引先へのメールでは、退職の理由は書かず、後任の名前と連絡先をはっきり書きます。
相手が知りたいのは「明日から誰に連絡すればいいか」だからです。
転職先の社名も書きません。
今の会社の顧客に、次の会社の名前を知らせる形になると、思わぬところで誤解を生みます。
例(取引先への挨拶メール):
件名: 担当者変更のご挨拶(〔会社名〕〔氏名〕)
〔取引先の会社名〕
〔部署名〕 〔氏名〕様
いつもお世話になっております。
〔会社名〕の〔氏名〕です。
私事で恐縮ですが、〔〇〇〕月〔〇〇〕日をもって担当を離れ、退職することとなりました。
在任中は、〔案件名など一つ〕で大変お世話になりました。
心より御礼申し上げます。
〔〇〇〕月〔〇〇〕日以降は、同じ部署の〔後任の氏名〕が担当いたします。
後任の連絡先は、メール〔アドレス〕、電話〔番号〕です。
近日中に、〔後任の氏名〕とご挨拶に伺えればと存じます。
今後とも〔会社名〕をよろしくお願いいたします。
「〔〇〇〕月〔〇〇〕日をもって」の日付には、取引先向けでは最終出社日、つまり自分が担当を外れる日を入れます。
有給休暇を消化してから辞めるなら、書類の上の退職日はもっと後ですが、取引先が知りたいのは、いつまで自分に連絡がつくかです。
「〔案件名など一つ〕」の行は、その取引先とだけの話を入れます。
一緒に乗り越えた納期や、最初の打ち合わせの場所のような話です。
全員に同じ文面だと、この1行が抜けた定型文に見えます。
取引先を何社も担当しているなら、宛先は1社ずつにして、BCCの一斉送信は避けます。
長く担当してきた相手や、取引の大きい相手には、メールだけで済ませないほうが角が立ちません。
先に電話か対面で一言伝え、「改めてメールでもお送りします」と言ってから送ると、メールは記録の役目になります。
どの相手に直接伝えるかは、上司と担当の一覧を見ながら決めます。
後任がまだ決まっていないとき
最終出社日が近いのに、後任の名前が決まっていないこともあります。
その場合も、取引先への連絡を後回しにはしません。
後任の代わりに、当面の窓口になる人か部署の連絡先を書き、「担当が決まりしだい、改めてご連絡いたします」と添えます。
窓口を誰にするかは、自分で決めずに上司に確かめます。
例(後任が未定のときに差し替える2行):
〔〇〇〕月〔〇〇〕日以降のご連絡は、〔上司の氏名〕または〔部署の代表アドレス〕までお願いいたします。
新しい担当者が決まりしだい、〔上司の氏名〕より改めてご連絡いたします。
社内へのメール
社内向けは、取引先向けより短く書きます。
宛先は、部署の全員と、仕事で直接関わった人に絞ります。
人数が多ければ宛先をBCCにして、返信が全員に回らないようにします。
例(社内への挨拶メール):
件名: 退職のご挨拶(〔部署名〕〔氏名〕)
〔部署名〕の〔氏名〕です。
本日〔〇〇〕月〔〇〇〕日が最終出社日となりました。
入社してからの〔〇〇〕年間、〔具体的な仕事を一つ〕をはじめ、多くの場面で助けていただきました。
直接ご挨拶できなかった方には、メールでのご連絡となり失礼いたします。
担当していた業務は〔後任の氏名〕さんに引き継いでいます。
皆さまのご健康とご活躍をお祈りしております。
件名に部署名と氏名を入れておくと、受け取った側が後から探しやすくなります。
「退職のご挨拶」だけの件名は、同じ時期に辞める人がいると、どれが誰のものか見分けがつきません。
同じ部署でも、休職中の人や育児休業中の人には、一斉メールとは別に短い個別のメールを送る人もいます。
会社のアドレスを今は読んでいない相手かもしれないので、届くかどうかを近くの人に聞いてから決めます。
部署によっては、送る前に文面を上司に見せる決まりになっていることがあります。
決まりがなくても、上司にだけは先に一言かけてから送ると、あとで話がこじれません。
書かないほうがいいこと
辞める理由は、社内向けでも「一身上の都合」以上には書かないのが無難です。
不満があって辞める場合でも、メールは転送されて残ります。
退職の挨拶のつもりの1通が、何年も後に誰かの受信箱で開かれることもあります。
私用のメールアドレスや電話番号は、本文に書かずにおきます。
連絡を取り合いたい相手には、個別に伝えます。
会社のアドレスで送ったメールは、送った時点で会社の記録にも残ります。
転職先の社名を社内に知らせるかどうかは、自分で決めてかまいません。
同じ業界に移る場合は、営業秘密や顧客情報の扱いと絡むことがあるので、同業他社へ転職する営業職が確かめることも目を通しておきます。
当日の送り方
当日の流れは、だいたい次のようになります。
午前中に、机まわりの片づけと、会社に返す物の確認を済ませます。
午後、直属の上司と、近くの席の人には口頭で挨拶します。
メールは、定時の30分から1時間ほど前に送ります。
定時の直前に送ると、返信をくれた人に返事を書く時間が残りません。
返す言葉は短くていい。
「〔〇〇〕さん、〔具体的な出来事〕のときは本当に助かりました。
ありがとうございました」くらいで、相手との場面が1つ入っていれば十分です。
返信には、その日のうちに一言ずつ返します。
社用のパソコンを返却したあとは、もう読めないからです。
会社に返す物の一覧は退職時に受け取る書類と返すものにまとめています。
机の上に残すのは、返却するパソコンと社員証と、後任あての引き継ぎのメモ1枚です。
メモには、取引先ごとに挨拶を済ませた日を書き添えておくと、後任が電話を受けたときに話を合わせやすくなります。
メールの文面を考えるより先に、上司に1つだけ聞いておきます。
取引先には、いつ、どこまで知らせればいいか。
その答えが出るまでは、取引先あての下書きの宛先欄は空けたままにしておきます。
アイキャッチのイラストはAI生成です。



コメント