退職の本当の理由を会社に言えなくて切り出せずにいるなら、理由は全部言わなくてかまいません。
退職届は「一身上の都合」で足りますし、口頭で聞かれても、詳しい事情は話さずに、辞めることと辞める日を伝えることはできます。
作り話を用意しなくても、辞めると伝えることはできます。
今日やるのは、本当の理由を紙に書き出して、会社に言うものに線を引くところまでです。
上司が怖くて話せない場合の伝え方は、退職が怖くて言い出せないときに書きました。
ここで扱うのは、話すつもりはあるのに、理由のところで口が止まってしまう場合です。
辞めるのに、理由の説明は要るのか
最初に見るのは、雇用契約書(労働条件通知書)のうち、契約の期間が書かれた欄です。
期間の定めが無い雇用なら、民法627条により、働く側はいつでも解約の申し入れができます。
条文に書かれているのは申し入れから2週間で雇用が終わるという決まりで、理由を述べることは求められていません。
申し入れは会社に届いたときに効力が出て(民法97条)、2週間はその翌日から数えます(民法140条)。
就業規則に「退職の1か月前までに申し出る」などとあれば、その期限も見て日程を相談します。
会社と合意できれば、その期限より早い日に辞めることもできます。
会社が合意しない場合でも、厚生労働省のモデル就業規則の解説は、期間の定めのない雇用では、会社の承認がなくても、原則として14日を経過したときは退職となる、としています。
期間の定めがある契約を途中で終わらせたいなら、話が変わります。
会社と合意して辞めるのでなければ、民法628条にいう「やむを得ない事由」に当たるかどうかが先に問われ、ここでは理由の中身が関わってきます。
1年を超える契約で、初日から1年が過ぎていれば、労働基準法137条により申し出ていつでも退職できます(事業の完了までと決めた契約と、14条1項1号の基準に当たる高度な専門的知識等を持ち、それが要る業務に就く人、満60歳以上の人は除く)。
自分の契約がどれに当たるか迷ったら、労働局や労働基準監督署の中などにある総合労働相談コーナーで聞けます。
予約は要らず無料ですが、退職の連絡を代わりにする所ではありません。
出典: e-Gov法令検索「民法」第97条・第140条・第627条・第628条/e-Gov法令検索「労働基準法」第137条/厚生労働省「モデル就業規則」第52条の解説/厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」(当サイトで要約)
本当の理由を書き出して、言う分に線を引く
理由のところで止まるなら、頭の中で言い方を考え続けるのをやめて、紙に全部書き出します。
例(書き出した本当の理由):
・今の仕事の中身が、自分に合わないと感じている
・〔上司の名前〕さんの言い方が、毎朝つらい
・この先、給料が上がる見込みが見えない
・次の仕事は、まだ決まっていない
・日曜の夜になると眠れず、月曜の朝に駅で足が止まる
線を引くのは、言っても自分が困らない、話してもいいと思える事実です。
上の例なら「仕事の中身が合わない」と「次はまだ決まっていない」くらいで、残りは会社に言わなくても、辞めることは決められます。
上司の言い方がつらい、という理由も言わずにおいてかまいません。
ただ、暴言や嫌がらせに会社として対応を求めたいなら、それは退職の理由とは分けて、人事などに相談の中身として事実を伝えます。
眠れない、足が止まるといった、体に出ている理由があるなら、会社に何を言うかを考えるより先に受診します。
医師の判断で休む道もあり、休職の制度があれば、休みながら辞めるかを考えられます。
言わずにおくことと、作り話は別
本当の理由の一部を言わずにおいても、会社に嘘をついたことにはなりません。
退職届の「一身上の都合」は、自分の側の事情で辞めるという意味の決まった言い方で、事情の中身までは書きません。
気が重いのが、親の介護や引っ越しといった本当ではない理由を足そうとしているせいなら、その話は足さなくてかまいません。
ただ、上司に話さないことと、雇用保険の手続きで事情を伝えることは別です。
ハローワークが示す範囲には、上司や同僚からの嫌がらせや、病気・心身の障害による離職も入っているので、当てはまりそうなら手続きのときにハローワークで事情を話して確かめます。
出典: ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」(当サイトで要約)
作り話をすると、辞める日まで話を合わせ続けることになりがちです。
引き継ぎの合間や最後の挨拶で「お母さん、その後どう」と聞かれれば、そのたびに続きを作ります。
事実だけで組んだ一行なら、何度聞かれても同じことを言えば済みます。
聞かれたときの一行を、先に決めておく
理由を聞かれたときに言う一行は、線を引いたものだけで作り、言う日の前に1回、声に出して読んでおきます。
例(理由を聞かれたときの一行):
・言える理由があるなら →「今の仕事とは違う方向に進みたいと考えています」
・次が決まっていないなら →「次はこれから探します、先に区切りをつけたいと考えました」
・言いたくないなら →「自分で考えて決めたことなので、詳しくは控えさせてください」
・重ねて聞かれたら →「お話しできるのはここまでです、退職の日のご相談をさせてください」
同じ質問が何度来ても、同じ一行を繰り返してかまいません。
話が理由から離れないときは、「〇月〇日付で辞めたいと考えています」と日付の話に戻して、引き継ぎの進め方を相談します。
それでも、話した理由によっては異動の案や、改善するから残ってくれないかという引き止めが来ることもあります。
そのときは「ありがとうございます、ただ決めたことは変わりません」と短く返して、日付の話に戻します。
引き止めが続く場合の返し方は、退職の引き止めの断り方にまとめました。
理由を詰める前に、辞めるかどうかを決める
理由を書き出しているうちに、辞めるかどうかそのものが揺らぐこともあります。
まだ揺れているなら、上司に伝えるのは「今後の働き方のことでご相談があります」までにとどめます。
退職願のように会社の承諾を求める形と、「〇日付で退職します」と言い切る辞職の申し入れとでは、あとから取り消せるかどうかの扱いが分かれることがあります。
辞めると決めているなら、先に上司に15分の時間をもらい、面談で退職日と、聞かれたら理由の一行を伝えます。
口で言うのが難しければ、期間の定めのない雇用なら、退職日を書いた文面を社内メールかふだん使っているチャットで送る方法もあります。
文面の理由は「一身上の都合」だけで足り、退職日は会社に届く日から2週間より後にします。
「辞めたいと考えています」と書くと、合意退職の申し込みと読まれることがあります。
辞職として伝えるなら「〇月〇日をもって退職します」と言い切る形にします。
どちらに当たるかは、文面の中身や前後の言動から判断されます。
言い切った文面は取り消せない前提で、辞めると決めてから送ります。
送ったら、宛先と日時と本文に加えて、届いたとわかる返信も手元に残しておきます。
出典: 厚生労働省「モデル就業規則」第52条と解説(当サイトで要約)
今日と今週にやること
今日:
- 雇用契約書(労働条件通知書)で、契約の期間の欄を見る
- 本当の理由を紙に全部書き出し、会社に言うものだけに線を引く
今週中:
- 線を引いたものから、聞かれたときの一行を作り、声に出して1回読む
- 体に出ている理由があるなら、言う日を決める前に受診する
- 期間の定めがある契約で途中で辞めたいなら、総合労働相談コーナーで自分の場合を聞く(退職の連絡は代わりにしない)
- 辞めると決めているなら、上司に時間をもらう連絡を送る
書き出した理由のうち、線が引けたのはいくつありましたか。
アイキャッチのイラストはAI生成です。



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